【ロングインタビュー】2017ルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた山下 太一朗選手に聞く「Rookies ~気球に賭けるアツい青春~」

2017佐賀インターナショナルバルーンフェスタにて行われた第34回熱気球日本選手権に初出場し、名だたるパイロットを抑え5位に入賞!その年の熱気球日本選手権に初めて出場した選手の中で最優秀成績だったパイロットに贈られる新人賞"ルーキー・オブ・ザ・イヤー"に輝いた 山下 太一朗 選手(写真右から2人目)、に激動の大会5日間を「Rookies ~気球に賭けるアツい青春~」と題し、振り返っていただきました。


- まずは、山下 太一朗 選手(以下、山下選手)の「第34回熱気球日本選手権」における"ルーキー・オブ・ザ・イヤー(新人賞)"の獲得おめでとうございます。他のルーキー対象選手を大きく引き離しての堂々たる成績。表彰式から一週間ほど経ちましたが改めて新人賞を獲得したご感想をお聞かせください。


- 山下選手:ありがとうございます。入賞とルーキーを獲れてホッとしたというのが正直な感想です。目標としていたところだったので達成できた嬉しさももちろんありますが、これまで3戦ホンダグランプリを戦って入賞してきたので、周りからのプレッシャーは中々のものでした。中には僕の姿を見て「なんだルーキー確定じゃん!」と煽られる方もいましたからね(笑)とにかくホッとした気持ちのほうが強いです。


- 山下選手は現在、京都大学の学生ですが、佐賀生まれの佐賀育ち。地元佐賀で開催された熱気球日本選手権(2017佐賀インターナショナルバルーンフェスタ内)で新人賞を獲得できたことは、感動もひとしおなのでは?


- 山下選手:そうですね。ほかの場所でのフライトも好きですが、小さいころから毎年欠かさず土手から見ていたこの舞台で飛んでそれなりに目立つことができたのはどんな大会よりも嬉しいことです。夢が叶ったといってもいいくらいですね。同じようにバルーンを土手から見ている子どもたちにもパイロットになってもらってこの感動を味わってほしいです。


- ご家族や同級生からの反応はどうでしたか?


- 山下選手:中々の反響でした(笑)飛んでいるときも写真を撮ってSNSに載せてくれたり、着陸地まで来て声をかけてもらったり、ホームなんだなあとしみじみ感じましたね。あ、それと会場に飛んできたときは会場過ぎた後にLINEの通知がすごかったです(笑)フライト後に見たんですけど、みんな見に来てくれていて気球の写真を送ってくれてました。本当に感謝でしかないです。


- 山下選手といえば、デビュー戦の「一関・平泉バルーンフェスティバル2016」であの藤田雄大選手を抑えての堂々2位。あの時はびっくりしました(笑)


- 山下選手:自分でもびっくりでしたよ(笑)当時、世界選手権を2週間後に控えた代表パイロットが、マシュー(マシュー・スケイフ)選手やリマ(ルペルシオ・リマ)選手を含めたら10人近く参加していたわけですから。デビュー戦で表彰台とか最近のグランプリで聞いた覚えがなかったこともあって随分と舞い上がっちゃたことは覚えてます(笑)


- 山下 太一朗、ここにあり!(笑)


- 山下選手:でもよくよく考えてみても、あの時はかなり運要素が強かったのかなとは思います。全然技術も考え方も甘かったけど風が味方してくれたって感じですね。そこから比べると1年経って考え方は多少レベルアップしたかなと思います。技術はまだ全然だめでですけども(笑)



(左:パシフィックカップ優勝の上田諭選手 中央: 山下選手)


- それでは、今年の大会を振り返ります。

今年の2017佐賀インターナショナルバルーンフェスタのパシフィックカップ(兼日本選手権)では、5日間で合計15タスクが実施されました。山下選手は、大会初日の第1タスク PDG(パイロット・デクレアド・ゴール)で、まさかの216pt(1000pt満点)と、最悪の出だしとなりました。そして、午後の競技は、task4のFIN(フライイン)でも大外し。

ゴールが設置されていた会場から見ていたのですがローンチエリアに入ることなく、そのまま東に流れていってしまいましたね。


- 山下選手:初日はまさしく悪夢でした。

大会前日から夢気分という感じで遠足の前日の小学生のように寝れずに完全な寝不足(笑)頭が全く回らずに1日を通してどう飛べばいいのか十分に考えきれていませんでした。技術がほかのパイロットに比べて劣る分、考えることを徹底してやらないとゴールに寄れないとわかっていたのですが、まさかここまで飛べなくなるとは...初日が終わった夜は正直入賞もルーキーも無理だと覚悟してました。初日夜のレセプションでは人とあまり話せないような状況でしたね(笑)なのでしっかり反省して十分な睡眠をとりました。


- そこでしっかりと眠れるところが素晴らしい(笑)そこからの巻き返しが見事でしたね。特に大会3日目(11月3日(金・祝))の午前。3タスク合計3,000ポイントのうち31ポイントしか落とさない驚異的な結果を出しました。あの日についてはいかがですか?


- 山下選手:まず3日目を振り返る前に僕としてのターニングポイントは2日目にありました。実は大会を通して佐賀大学のルーキー2人と河田君の4人で共通無線のチームを組んでいて、初日の反省を踏まえてフライト中に十分なやり取りができたんです。おかげでまあまあ良いフライトができました。


- へぇ、裏ではそんなことが!?


- 山下選手:でもゴールに寄せる細かい詰めの作業や、マーカーを投げる技術でほかのルーキーと差が付いちゃって、結果そこが上手くいった河田君が日本選手権9位に抜けたんですよね。そこで「さすがに後輩に負けるわけには」と火がつきました。2日目の振り返りをするにあたって反省点をできるだけ具体的にあげて3日目で確実に修正するようにしたんです。それが結果として3日目のほぼ完璧なフライトにつながったと思います。

- その3日目午前のtask8 FIN(フライイン)では、北東風に乗ってスルスルと大会会場のローンチエリアに入ってきて、見事ターゲットにオンターゲット!「やったー!やったー!やったー!」のポーズを決めましたね。

嘉瀬川河川敷を埋めつくす大観衆の前でのポージング、いかがでしたか?(笑)


- 山下選手:じつはあの時ミスをしてるんです(笑)


- ええっ!


- 山下選手:ほぼ真上を通ったのに気合い入れて投げすぎて、自分よりも内側に結構な数のマーカーがあったんでショックでした。よく動画を見てもらったらわかるんですけど万歳をする前に頭抱えてるんですよね(笑)


- そんなことしてましたっけ?(笑)


- 山下選手:でも頭抱えた時に我に返ったんです。「ここは会場だから"アレ"をやらないと!」って。そのあとはほぼ覚えてません。もうなんだか夢中でしたんで(笑)動画見直して「あ、こんなことしてたんだ」って知りました。でも対岸の土手を通過したときに下から地元の友人たちが声をかけてくれたのでそこではいろいろと実感しましたね。「とうとうやったぞ!」って。



- 動画だと見切れっちゃって分からないな〜山下選手のかっこいい姿しか映っていない(笑)


- 山下選手:タスクとしては(マーカー)投げ以外の組み立ては非常に良かったです。3キロ以上離れたところからの離陸だったんですけど、幾分3キロ分テンポ良く進めるハッキリとした風が高いところ(高度)にしかなかったので、自分が乗ってる西風高さから地上までの会場付近の風の様子が全く見えていませんでした。なのでほぼ一番最初に飛んだんですけど、速い風と遅い風を見極めて後ろに回り込んで数機を先に飛ばしながら風見にしてたんです。


- 他機を風見に!そんなことが!?


- 山下選手 :その風見の気球のおかげである程度風が見えたのでより速い西風で前に出て手数をかけずに早いタイミングで攻めるように心がけました。特に最後に乗った地上付近の北東風は後のタイミングで消えて後方集団はほぼ無風の中で苦戦していましたよね。プラン通りのいい攻めでした。


(11月3日 午前のタスクシート)



- そして、その日(11月3日(金・祝))の最終タスク task10 FON(フライオン)では、ゴールとの距離「23㎝」で全体1位の1000ptを獲得!会場にいると、なかなか外での競技の様子が分からないのですが、フライトプランどおりの一投でしたか?


- 山下選手- 山下選手:Task9のFONもうまく修正できてほぼ完璧な運びだったんですけど、実はtask10はかなりラッキーでした。Task9のゴールから北東風のみで次のゴールを攻めるプランで飛んでたんですけど、さっき言った後方集団が無風に捕まったタイミングで僕はtask10のゴールにあと500mのところだったんです。同じように動けなくなって、地上班に北東風探してもらったんですよ。でもやはり見つからない。無風の場所で粘るしかなくなったんです。

そしたら本当に運よくまた北東風が吹き始めてくれて。そこからはさっきも言ったように2日目の反省を踏まえて丁寧に飛んで(マーカー)投げをミスらないようにするだけでした。運が味方して前日の反省が活きた形になりましたね。



- 大会終わってみれば、日本選手権でも全体で5位。ルーキー対象選手には1000pt以上離してのフィニッシュ。ずばり勝因は?


- 山下選手- 山下選手:振り返ってみて思うのは、なるべく早いタイミングで飛びながら地上や共通無線チームとしっかりとやり取りして風を見えるように工夫していったことです。ほかのルーキーのパイロットも技術的に僕より劣るなんてことはないと思いますし、実際順位的にも3日目までは自分より上に数人いました。でもそこで最終的に勝てたのは集中して最大限ゴールに寄れる確率を上げるための工夫を継続して講じることができたからです。本当地上班や共通無線で一緒に戦ってくれたチームの皆さんには感謝しかありません。

あ、それとなによりあとはちゃんと寝ること。もう絶対寝不足だけは嫌です(笑)



(他ルーキー対象の選手とのスコア比較)


- 確かに(笑)期間が長い大会には「しっかりと睡眠をとる」のも必須の能力ですね。山下選手は、昨年開催された2016佐賀熱気球世界選手権では日本代表選手のクルーとして参加されていましたが、その時の経験も役に立ちましたか?


- 山下選手- 山下選手:やはり参加選手のレベルが違いますし、競技の傾向も競技委員長によって変わるので役に立った部分と立たなかった部分があります。佐賀の気象傾向についてはグランプリも含めて10日間分の高度な気象情報を得ることができて、自分自身のフライトのイメージにも役立ちました。

逆に参加機数やレベルが多少違うので位置取りやプランニングについてはほとんど参考にしてません。なるべく目の前にある生の情報を処理することで経験的な部分は最小化するようにしました。


- 過去にこのルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得されたパイロットには、今年、優勝した上田 諭選手をはじめ、2014ブラジル熱気球世界選手権の世界チャンピオン 藤田 雄大選手など日本を代表するトップパイロットと同じ道を歩んでいくことになりますね。


- 山下選手:ルーキーを獲ったパイロットに名前を連ねることができたのはとても嬉しいですし、上田選手は日本選手権8位でルーキーを獲ったので、その上を行くことができて非常に自信にはなります。一方で他の世界選手権に出られているルーキー獲得パイロットの中にはルーキーで表彰台に上がっている選手も藤田選手をはじめとして複数いらっしゃるので悔しさは非常に残りますね。来年以降は表彰台が目標になりますがそういった強いパイロットに負けないように頑張ります。



- 今回、パシフィックカップと日本選手権の2冠を達成した上田 諭選手との違いは、どこと思われます


- 山下選手:ストイックさからくる経験の密度と量、それに大会中の生活リズムです。上田選手の気球に対するストイックさ、そこから生まれる経験値の密度に肩を並べられるのは今の日本では藤田(藤田 雄大)選手だけじゃないでしょうか。肩を並べるとはいってもベクトルが全く違います。藤田選手はプロとして世界中で経験を積まれているのに対して、働きながら気球をされている上田選手は生活のあらゆる場面を糧にしている印象です。僕もこうしたストイックさは見習わないといけないなと感じています。密度の濃い経験は何倍も速く技術を身につけさせてくれますからね。


- 上田諭選手は、大会期間中は同じような生活リズムで過ごしたと言われていましたね。


- 山下選手:そう、それに大会中の過ごし方。これも見習わないといけません。どうフライト以外の場面を過ごすかがフライトでの精神と技術の両面に影響を与えます。僕はそれがダメだったんで初日があんなことになりました(笑)しっかりと反省ですね。



- さて、山下選手といえば、佐賀で育ち、子供の頃から「バルーンフェスタ」を見て育ち、バルーンを追って走り回っていたと伺っています。最後に、山下選手のこれからの目標と、佐賀の子どもたちにメッセージをいただけますでしょうか?


- 山下選手:まずは目の前にあるジュニア世界選手権で優勝することです。世界選手権で入賞するような選手も出る大会でしっかり結果を残して、日本には藤田選手や上田選手だけじゃなく強い若手もいるんだぞってことをアピールしたいです。そして、その先にあるのが世界チャンピオン。やはり観客として、クルーとしてそれぞれ見た世界選手権(97年、16年の佐賀)を見た人間が最終的に行き着く場所です。ここで絶対に勝ちたいです。


- そして未来のバルーン二ストたちへ一言。


- 山下選手:周りでやってる人がいなくても気球はできます。僕だってそうでした。バルーンをやりたいという気持ちだけでここまで来たので、誰にだってできます。やっぱりお金はかかるけど(笑)

でもいっぱいのバルーンを下からじゃなくて一緒に空から見て味わうあの感動はどんな感動よりも大きいものです。お金なんて関係ない。この感動を味わってくれる子が僕の飛んでいる姿を見てくれた人の中から出てきてくれるとうれしいですね。



(幼少期からすでにバルーン好きの山下 太一朗さん)


- 山下選手、どうもありがとうございました。山下選手は、来年は26歳以下のジュニア世界選手権に出場予定。学生パイロットということで、学業にも励みつつ、パイロットとしての技術や経験も更に積んでいただき、佐賀、いや世界を代表するパイロットして成長してほしいですね。山下 太一朗 選手のフライトを見る機会がありましたら「ヤマP ~!」と手を振ってくださいね!


(聞き手 / 公式ネットチーム 帆秋 圭司)

最終更新日 2017年11月29日

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