真っ黒なバルーンが、突然ランチサイトに出現しました。
大会4日目、午前の競技終了後のことです。
係留したままバーナーを点けたり消したりし、地面を小さく跳ねるように移動しています。そのバスケットの周りを、クルーはもちろん、いかにも歴戦のつわものといった雰囲気の日焼けしたバルーニストがぐるりと取り囲んでいるのです。バルーンが動けば周囲の人垣も一緒に移動し、全員で何やら熱心に話し合っている模様です。パイロットは女性で、がっちりした男性陣の中にあるとひときわ可憐にみえます。
バルーンの形は当たり前の球体で、シェイプド・バルーンではありません。かといって、エントリーされている競技バルーンにも今大会のオフィシャル・バルーンにも、該当するようなものはないのです。この黒いバルーンは一体何なのか?土手にいるお客様も不思議そうに眺めています。
「すみませーん、これは何のためのバルーンですか?」
色黒で体格のよい殿方の壁に向かって勇気を振り絞って声をかけると、
「世界記録ですよー」
と、壁の向こうから、明るく力強い声が返ってきました。
声の持ち主は、エントリー番号68番、井上義裕さんのクルーであり妻である、そして、この黒いバルーンのパイロットである井上水子さん。世界記録について井上水子さんにインタビューしてみました。
井上さんが狙っている世界記録について、詳しく教えて下さい。
―女性パイロットによる、滞空時間世界一(バルーンの級:体積900立方メートル)を目指しています。この級で4時間10分飛行できれば世界一です。
世界一になるということは、どこかの大会で優勝する、ということでしょうか?
―いいえ、違いますよ。資格を持つ第三者の立会いの下に、定められた規則と条件を守って記録を出す、ということです。この年末年始に、北海道でチャレンジします。
どうして北海道なのですか?
―できるだけ低温の条件のほうが、長い時間飛べるからです。
球皮の色が黒いということも、よい記録を生み出すためでしょうか?
―そうですね。ソーラー効果を期待しています。
先ほどは何をなさっていたのですか?
―よりよい気球を作るために、経験豊富で優秀なバルーニストからアドバイスしてもらっています。10月9日に完成したばかりのこの黒い気球が記録を狙おうとするならば、改善するところが山ほどあるので…現在佐賀に集まっている皆さんは自らの手で気球を製作した御経験もお持ちで、そんな皆さんからの助言は新記録達成のために不可欠なのです。
世界記録を目指そうと思われたきっかけを教えていただけますか?
―長い間、私のように小柄な女性(153cm)はバルーにストには向かない、と思い込んでいたのです。かつては機材のサイズが画一的で、背の低い人間がバルーンを操縦することは、背の高い人間に比べてハンデが多かったのです。ところが、ある日、できるだけ体重の軽い、つまり小柄な人間のほうが、長い滞空時間を目指すバルーンパイロットに向いていると知ったのです。よーし!、と思いました。
世界記録挑戦まで三ヶ月をきった現在の心境を、お聞かせ下さい。
―まず、支えてくれている仲間への感謝でいっぱいです。多くの仲間の、たくさんの知恵がなかったら、ここまで来ることはできませんでした。あとは、とにかく忙しくて、疲れていて、不安だらけ、ということです。夢を追いかけるということは、疲労と不安に追いかけられるということなんですね(笑)
お忙しいところ、どうもありがとうございました。がんばって下さい。
―ありがとうございます。やり抜きます、なんとか…(笑顔×2)
キラキラ輝いている井上さん、応援しています!がんばって下さい!!
reported by なつこ
[つづきの話]
謎の黒い球は世界を超えて(2007年1月20日レポート)